飢えが満たされるとき
海外で生活するとき、日本語の専門書ではない本にいつも飢えています。いつも日本の図書館のシステムは素晴らしいと思えるほど!!
先日同じ業界の先輩にいただいた本を間もなく読破して、もっと味わって読めば良かったと後悔しつつ、これで味をしめてもっと読みたいと思ったりもします。
ちなみにシンガポールに滞在中は某本屋にお昼休みに毎日通って読んでいました。買えよってツッコミが入りそうですが、海外で日本の書籍は高いのです(;_;)
今回読んだ本は「炎熱商人(上下)」です。
- 作者: 深田祐介
- 出版社/メーカー: 文藝春秋
- 発売日: 1984/02/25
- メディア: 文庫
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商社鴻田貿易のマニラ事務所は、日本の高度成長に伴う建築ラッシュを受け、マニラから大量のラワン材を輸入しようと企画します。しかし、当時のフィリピン、物語の舞台は昭和40年代ですが、日本に対する戦争の記憶が色濃く残る時期でもあります。苦労しながら、人格者であるマニラ事務所長である小寺の人間力により、数々の問題を打開していきます。
現地でのヤクザまがいの相手に銃を突きつけられながらも、相手の立場、そしてフィリピンという国を思いやりながら交渉をしていく小寺に対して、本社はその苦労を無にするような要求を突きつけてきます。本社と現地での板ばさみになりながらも、何とか打開策を探る小寺支店長とその周りの人たちの物語は、わたしのようなフィリピン在住者のみならず、惹きつけられると思います。
物語には様々な対比が含まれています。
小寺支店長は、まさに理想に生きる人。一方、理想主義の小寺とは寄り添わず、我が道を行く本社から出向した鶴井。若くて、体育会系でシリアスな物語の中で唯一、笑わしてくれる三枚目キャラ的な存在の石山。現地スタッフで日本人とフィリピン人のハーフであるフランク、個性あるキャラクターたちを通じて戦中と戦後、富裕層と貧困層、理想と現実・・それが折混ざりながらも問題を提起しています。
私は、ここ数カ月日本人のゲストを第二次世界大戦に縁がある地域にお連れして、解説するという役を仰せつかっていたりしたため、日本とフィリピンとの間で揺れる日本人とフィリピン人のハーフであるフランクに注目して読んでいました。日本軍に従軍したフランク経験を持ち、日本人以上に日本的になりつつ、フィリピン人との間を揺れ動いていて、物語の対比の構図を深くします。
印象に残った台詞
「戦後の日本人はね、フランク、あんたが戦時中、つきあっていた百姓上がりの連中とは、まるで違う人種なんだ。ちゃんと高等教育を受けた常識ある新種の日本人なんですよ。敗戦が日本人を根底から変えたんだよ」(鶴井)
「海外で我々が働いているのは何の為だと思う?それは、会社の為でもある、日本の為でもある、しかし、一番大切な事はその国の為に何か役に立つことをしようと考えないといけないのじゃないのかね。」(小寺)
深田さん、良書をありがとうございました〜飢えた心が満たされました。